角膜潰瘍は、目の表面にある透明な膜である角膜に傷がつく病態を指します。目を閉じたり、目をこすったり、涙や目やにの増加などの症状が特徴的です。
傷の深さによって症状の重症度が異なり、軽度の場合は点眼薬による治療で改善することがありますが、傷が深い重度の場合には、格子状角膜切開といったより積極的な外科的治療が必要となることがあります。
今回は犬や猫の角膜潰瘍について、症状や治療方法などを解説します。
■目次
1.原因|外傷、シャンプーやドライヤーによる刺激、ドライアイなど
2.症状|目をつぶる、しょぼつかせる、涙や目やにが増えるなど
3.診断|傷を染色する特殊な液体での検査など眼科検査で診断する
4.治療|基本は点眼治療。重度の場合は外科手術も
5.予防|シャンプーやドライヤーの刺激に注意!
角膜潰瘍の原因は、多岐にわたりますが、主に以下のようなものが挙げられます。
・外傷:おもちゃなどが目にぶつかる、喧嘩による目のケガ、アレルギーなどの痒みから目を掻いてしまう
・薬物:シャンプーなどの刺激
・まつ毛やまぶたの異常:逆さまつげ(眼瞼内反症)、マイボーム腺炎
・ドライアイ:涙液不足による角膜の乾燥
特に、目が大きく飛び出ている短頭種にこの病気が見られます。犬の場合、シー・ズー、ペキニーズ、フレンチ・ブルドッグ、パグなどが該当し、猫ではエキゾチック・ショートヘア、ヒマラヤン、ペルシャなどがこれにあたります。
また、毛質が硬い犬種である柴犬などでも同様の症状が見られることがあります。
傷がついた側の目に痛みが生じるため、目を気にして引っかく、片方あるいは両方の目をつぶる、しょぼつかせる、白目が充血する、涙や目やにが増えるなどが主な症状です。
特に、目やにの増加や白目の充血は感染症による角膜潰瘍の兆候としてよく見られます。
また、症状が進行した場合、角膜が白く濁ることに加えて、潰瘍が深くなると角膜穿孔(穴が開く)が起こることがあります。
この角膜穿孔が起こると眼球の中の組織や水分が外に出ることがあり、非常に緊急を要する状態となります。
目の状態を確認するために、以下のような眼科検査を行います。
・フルオレセイン染色検査:角膜の傷を特定するために使用され、傷のある部分が緑色に染まります
・スリットランプ検査:角膜の断層を詳細に観察し、傷の深さを確認します
・眼圧検査:眼球の圧力を測定し、緑内障の可能性を調べます
・眼底検査:総合的な目の健康状態を把握します
・シルマーティアテスト:涙の量を測定し、ドライアイの有無を確認します
また、細菌感染や炎症の程度を見るために、角膜表面の細胞を採取して検査にかけることもあります。
角膜潰瘍の治療は、症状の重症度に応じて内科治療と外科治療の両方を組み合わせて行います。
傷が浅ければヒアルロン酸ナトリウムのような角膜保護剤による点眼治療が基本で、抗菌剤や抗炎症剤の点眼薬、内服薬などを処方することもあります。治療中に目を掻いてしまう場合は、目を保護するためにエリザベスカラーを装着します。
通常であれば2〜3週間あれば治りますが、なかなか治らない、再発を繰り返す場合は、慢性角膜上皮欠損(SCCEED)が疑われます。
慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)についてはこちらで詳しく解説しています
なお、傷が深く、角膜の深層まで達している場合は、結膜フラップ術と呼ばれる、結膜で潰瘍部分を覆って治癒を促す手術を行います。
また、角膜を保護する目的でコンタクトレンズの装着や、まぶたを一時的に閉じる手術を選択することもあります。
ご自宅でシャンプーをする際は、顔の周りはぬるま湯だけを使って洗うようにし、特にドライヤーの熱風が直接目に当たらないよう注意してください。
ドライアイなど、角膜潰瘍の原因になる目の病気もありますので、気になる場合は一度診察にいらしてください。
角膜潰瘍は目の表面に傷がつく状態であり、場合によっては自然に治ることもありますが、放置すると重症化することもあります。
そのため、愛犬や愛猫の目の異変に気づいたら、適切な治療を受けるためにも早めに受診するようにしましょう。
■当院の関連する病気はこちらで解説しています。
犬と猫の眼瞼内反症について|まつ毛やまぶたの毛が目に当たり炎症や感染などを起こす病気
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犬と猫のチェリーアイについて│目頭にぷっくりした赤い腫れが見られたら要注意
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<参考文献>
James-Jenks EM, Pinard CL, Charlebois PR, Monteith G. Evaluation of corneal ulcer type, skull conformation, and other risk factors in dogs: A retrospective study of 347 cases. Can Vet J. 2023 Mar;64(3):225-234.