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犬や猫の歯肉が腫れる理由とは?|歯周病、口内炎、腫瘍の治療と予防法

2024.12.20
犬の病気猫の病気

「歯肉が腫れている気がする」「最近、口臭が気になる」「前より食べづらそうで心配」――愛犬や愛猫のお口のトラブルに気づくと、心配になりますよね。

実は、歯肉の腫れの多くは歯周病が原因とされおり、このまま放置すると症状が進行し、重症化してしまうこともあります。

歯肉の腫れが必ずしも歯周病だけによるものとは限りません。特に注意が必要なのが腫瘍です。犬や猫の口腔内に発生する腫瘍は、悪性であるケースが多いことが特徴です。
もし早期に対応できない場合、命に関わる深刻な事態に発展する恐れがあります。そのため、異変に気づいた際はできるだけ早く受診し、適切な対処を行うことがとても重要です。

今回は、犬や猫の歯肉が腫れている場合に考えられる原因、適切な治療法、さらに日常生活での予防方法について、詳しく解説します。

■目次
1.犬や猫の歯肉が腫れる主な原因
2.歯肉が腫れている時によく見られる症状
3.歯肉の腫れを放置するとどうなる?
4.診断方法
5.治療法
6.家庭でできる予防と対策
7.まとめ

 

犬や猫の歯肉が腫れる主な原因


犬や猫の歯肉が腫れる原因として最も多いのは歯周病です。
歯周病は、口内で増殖した歯周病菌が歯肉に炎症を引き起こすことで発症します。さらに、犬や猫は人間と比べて歯石が形成されるスピードが非常に速いため、歯周病が進行しやすいのが特徴です。

特に歯と歯肉の境目に歯石が溜まりやすく、この部分で歯周病菌が増殖することで、歯肉の腫れや出血、歯のぐらつきなどの症状が現れることがあります。

歯周病についてはこちらから

また、歯肉が腫れる原因は歯周病だけではありません。その中でもよく見られるのが口内炎です。
口内炎は特に猫に多い病気ですが、その原因ははっきりとは解明されていません。ただし、以下のような要因が関係していると考えられています。

・猫白血病ウイルス感染症
・猫免疫不全ウイルス感染症
・歯周病
・食物アレルギー

口内炎についてはこちらから

さらに、歯肉に腫瘍ができることで、歯肉が腫れているように見える場合もあります。犬や猫の口腔内に発生する腫瘍は、悪性であるケースが多いのが特徴です。

・犬の場合:悪性黒色腫(メラノーマ)
・猫の場合:扁平上皮癌

口腔内腫瘍についてはこちらから
扁平上皮癌についてはこちらから

 

歯肉が腫れている時によく見られる症状


歯肉が腫れている場合には、その原因によってさまざまな症状が現れます。以下に、歯周病と口内炎に見られる主な症状を詳しくご紹介します。

<歯周病の症状>
歯周病が原因の場合、初期には以下のような症状が見られます。

歯肉の赤みや腫れ
口臭(腐ったような独特の臭い)
歯石の付着(徐々に大きく分厚くなる)

病気が進行するにつれて、以下のような症状が現れることがあります。

歯肉からの出血
よだれの増加
歯のぐらつき
食べこぼしが増える
食欲の低下

さらに、歯の根本を支える骨(歯槽骨)が溶けてしまうと、口と鼻の間に穴(口鼻瘻)が開くことがあります。
この状態になると、水を飲んだ際に水が鼻に流れ込み、鼻水やくしゃみといった症状が現れることがあります。

 

<口内炎の症状>
口内炎が原因の場合には、以下のような症状が見られることがあります。

歯肉からの出血
口臭
よだれの増加
食べこぼしが増える
食欲の低下
食事中に痛みで鳴き声を上げる

また、口内炎は全身の免疫力が低下した際に発症することが多いため、基礎疾患に伴う症状が現れることもあります。
基礎疾患としては、猫白血病ウイルス感染症猫免疫不全ウイルス感染症などの感染症が関係している場合があります。

猫白血病ウイルス感染症についてはこちらから
猫免疫不全ウイルス感染症についてはこちらから

 

歯肉の腫れを放置するとどうなる?


歯肉の腫れは、口腔トラブルの初期症状であることが多いです。現時点で食事ができていたとしても、治療をせずに放置すると、症状が進行してしまう可能性があります。
以下では、原因ごとに進行した場合のリスクを解説します。

<歯周病を放置した場合>
歯周病が進行すると、歯槽骨や顎の骨が溶け、骨が弱まることで顎骨骨折を引き起こす可能性があります。さらに、一度失われた骨は元に戻ることがないため、症状が進行する前に治療を始めることがとても大切です。

下顎骨骨折についてはこちらから

また、歯周病は口の中だけの問題ではありません。
歯周病菌が全身に悪影響を及ぼし、心臓病や糖尿病、敗血症を引き起こすリスクもあるため、予防と早期治療が重要です。

糖尿病についてはこちらから

 

<口内炎を放置した場合>
口内炎による歯肉の腫れが見られる時点で、すでに症状がかなり進行していることが多いです。そのため、放置すると痛みがさらに悪化し、食欲の低下や体重減少などの全身状態の悪化につながる恐れがあります。

 

<腫瘍を放置した場合>
腫瘍が原因で歯肉が腫れている場合、悪性腫瘍である可能性も考えられます。悪性腫瘍は進行が早く、早期に切除しないと他の臓器へ転移するリスクが高まります。
腫瘍による歯肉の腫れが見られたら、早急に動物病院で診察を受け、適切な対応を取ることが非常に重要です。

 

診断方法


歯肉の腫れの原因を特定し、それに応じた適切な治療を行うために、動物病院では以下のような診断や治療が行われます。

はじめに、口の中の状態を詳しく観察し、歯肉の腫れの原因を調べます。
歯周病が疑われる場合には頭部のレントゲンを撮影して、炎症がどの程度広がっているかを確認します。歯周病は骨にまで影響を及ぼすことがあるため、レントゲン検査は進行度を把握する上で重要です。

口内炎が原因と思われる場合には血液検査を実施し、全身の健康状態を詳しく確認します。
特に猫の場合は、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスの感染が関与していることがあるため、これらの抗原や抗体の有無を調べます。
また、口腔内に腫瘍が見つかった場合には、可能であれば腫瘍組織の一部を採取し、病理検査を行います。この検査により腫瘍が良性か悪性かを判断し、治療方針を決める材料とします。

 

治療法


犬や猫の歯肉の腫れに対する治療法は、その原因によって異なります。

<歯周病の治療>
歯周病の治療では、まず全身麻酔下で歯石を取り除くスケーリングを行います。この処置により、歯周ポケット内に付着した歯石をしっかりと除去し、炎症を改善します。また、歯周病が進行し、歯がぐらついている場合には抜歯を行うこともあります。

当院では、スケーリングを全身麻酔下で行うことを推奨しています。無麻酔でのスケーリングは、表面の歯石しか除去できないため十分な効果が得られないばかりか、動物にとってストレスや負担となり、処置を行うスタッフにも危険を伴います。
このため、安全で確実な治療を行うためには全身麻酔が必要です。

また、歯石はスケーリング後すぐに再び形成され始めるため、治療後のデンタルケアが非常に重要です。家庭での歯磨きなどの日常的なケアに加え、動物病院での定期的なチェックを組み合わせることで、再発を効果的に防ぐことができます。

さらに、炎症や感染が強い場合には、抗生物質や抗炎症薬を使った投薬治療を併用することもあります。

 

<口内炎の治療>
口内炎の場合、まずは原因となる病気を特定し、その治療を行います。例えば、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルス感染症が関与している場合は、これらの病気の治療を優先します。
また、症状が軽い場合には抗炎症薬や鎮痛薬による投薬治療を行いますが、重症例では奥歯を抜歯することで、痛みや炎症を軽減することもあります。

 

<腫瘍の治療>
腫瘍が原因の場合、基本的には外科手術での摘出が第一選択となります。腫瘍は進行が早いことが多いため、早期の対応が非常に重要です。
ただし、腫瘍の進行度合いや全身状態によっては手術が難しく、対症療法で痛みや不快感を和らげる治療に留まる場合もあります。

 

家庭でできる予防と対策


犬や猫は、歯石が形成されるスピードが非常に早いため、毎日の歯磨きが歯石の形成を防ぎ、歯周病を予防するための重要な習慣となります。

歯磨きをする際には、歯ブラシを少し傾けて、ブラシの先が斜めに歯肉にあたるようにしながら、ゆっくりと優しく磨くことを心がけましょう。詳しい歯磨きの方法については、病院のスタッフにもお尋ねください。

いきなり完璧に歯磨きをしようとすると、犬や猫にとってストレスになり、歯磨きを嫌がる原因となることがあります。そのため、まずは歯磨きシートや指サック型の歯磨きグッズから始めるのがおすすめです。
短い時間から少しずつ慣れさせ、最終的には歯ブラシを使えるように段階を踏んで進めていきましょう。

歯磨きのコツについてはこちらから

さらに、歯石予防用のフードやおやつを取り入れることも効果的です。これらを歯磨き後のご褒美としてあげることで、犬や猫が歯磨きに対してポジティブな印象を持ちやすくなり、ケアがスムーズに進められるようになるでしょう。

 

まとめ


犬や猫の歯肉が腫れる原因として、最も多いのは歯周病です。歯石の中で増殖した歯周病菌が歯肉に感染し、症状が進むと口の中だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。
また、口内炎はさまざまな病気が原因で起こるため、まずはその原因をしっかり探り、早めに対応してあげることが大切です。

どのケースでも、進行してしまうと治療が難しくなることが多いため、早期発見・早期治療が鍵となります。愛犬や愛猫にお口のトラブルが見られた際は、できるだけ早く動物病院にご相談ください。

 

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<参考文献>
Winer JN, Arzi B, Verstraete FJ. Therapeutic Management of Feline Chronic Gingivostomatitis: A Systematic Review of the Literature. Front Vet Sci. 2016 Jul 18;3:54. 
Wallis C, Holcombe LJ. A review of the frequency and impact of periodontal disease in dogs. J Small Anim Pract. 2020 Sep;61(9):529-540. 

 
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