避妊手術をしたにもかかわらず、犬の陰部から出血や分泌物が出ている場合や、おっぱいが腫れて、まるで偽妊娠のような様子が見られる場合は、卵巣遺残の症状かもしれません。
避妊手術後に体内に残っていた機能的な卵巣がホルモンを分泌して、犬の体に影響を及ぼすことがあります。
原因としては、手術時に卵巣の一部が取り残されてしまったり、生まれつき卵巣の位置に異常があったりすることが考えられますが、根本的な治療には外科手術が必要です。
今回は犬の卵巣遺残について、原因、症状、診断、治療などを紹介します。
■目次
1.原因|避妊手術での取り残しや先天的な異常
2.症状|避妊手術後の発情兆候
3.診断|症状と血液検査によるホルモン測定
4.治療|根本解決には外科手術
5.予防|卵巣遺残はほかの病気の原因になる
犬の避妊手術には、卵巣のみを摘出する方法や、子宮と卵巣の両方を摘出する方法があります。(当院では子宮と卵巣の両方を摘出する全摘を行っています。)
卵巣遺残は、手術中に卵巣が完全に摘出できなかったり、一部が残ってしまったりすることが原因で起こります。
卵巣遺残という病気自体は珍しいものですが、特に大型犬や太っている犬では卵巣の取り残しが発生してしまう可能性も捨てきれません。
また、非常にまれではありますが、手術での取り残し以外にも、通常は左右に2つあるはずの卵巣が3つあったり、卵巣が本来の位置ではない場所にあったりする先天的(生まれつき)の異常も原因として考えられます。
卵巣遺残がある場合、避妊手術をしたにもかかわらず発情の兆候が見られることがあります。具体的には、陰部が腫れたり、出血が見られたり、おっぱいが腫れて乳汁が出ることがあります。
これらの症状は、避妊手術から数週間から数年後に現れることがあります。
問診と身体検査から症状を確認し、採血をして性ホルモン濃度の測定を行います。また、膣の細胞を調べる検査(細胞診)を補助的に実施することもあります。
さらに、超音波検査やレントゲンなどの画像診断を合わせて行うことで、より正確な診断が可能になります。
性ホルモンを抑える内科治療も選択肢の一つですが、根本的な解決には外科手術が必要です。
外科手術では、お腹の中に残っている卵巣を摘出します。
卵巣遺残を完全に予防する方法はありませんが、卵巣が体内に残っていると性ホルモンが分泌され続け、避妊手術で予防できる乳腺腫瘍などの病気の原因にもなります。
「発情の兆候が見られるけど、避妊手術をしているから気のせいかな」と思わず、何か異変が見られたらお早めに動物病院を受診してください。
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<参考文献>
Miller DM. Ovarian remnant syndrome in dogs and cats: 46 cases (1988-1992). J Vet Diagn Invest. 1995 Oct;7(4):572-4.
Wallace MS. The ovarian remnant syndrome in the bitch and queen. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1991 May;21(3):501-7.