鼠径部は内ももの付け根に位置し、この部位にヘルニア孔と呼ばれる穴が開くと、脂肪や臓器が飛び出す「鼠径ヘルニア」という状態になります。この状態の主な症状には、内ももの付け根の腫れやぽこっとした膨らみがあります。
もし穴が小さく無症状であれば、治療をせず様子を見る選択も可能です。しかし、穴が徐々に大きくなり、腸や膀胱が入り込むようになると、腸閉塞や排尿障害を引き起こす恐れがあるため、早期の治療が推奨されます。
今回は犬の鼠径ヘルニアについて、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
■目次
1.原因|先天性と事故などによる後天性がある
2.症状|後ろあしの付け根が腫れる、膨らむ
3.診断|触診で大まかな診断は可能。精査のためには画像診断も
4.治療|外科手術でヘルニアの穴を塞ぐ
5.予防|早期発見・早期治療が重要!
鼠径ヘルニアとは、腹部の一部(腸や脂肪など)が鼠径管を通じて体外に突出する状態を指します。この状態は、先天的な原因や外傷などの後天的な要因によって引き起こされることがあります。
先天性の鼠径ヘルニアは、生まれつき腹壁が正常に閉じないために発生し、特定の犬種に多く見られる遺伝的要因が関与していることがあります。
特に気を付けてあげたい犬種や年齢は、ペキニーズ、ゴールデン・レトリーバー、コッカー・スパニエル、ダックスフンド、バセンジーなどですが、どの犬種、年齢でも起こる可能性があります。
また、先天性は若齢のオスに多いと言われていますが、後天性は中年齢のメスで多く、発情とともに悪化することがあるため不妊手術が推奨されることがあります。
一方で、後天性の鼠径ヘルニアは、加齢による筋肉の弱化や、肥満、事故による腹部内の強い圧力、妊娠中の腹圧の上昇などが原因で生じることがあります。
症状は、ヘルニアの大きさや突出している臓器の種類によって異なります。
初期段階では犬が不快感を示すことなく、内ももの付け根に小さな腫れや膨らみが見られることがあります。
ヘルニアの穴の大きさや、そこから突出しているものの種類と量によって、症状は異なります。場合によっては、押すと一時的に突出物が引っ込むものの、時間が経過すると再び膨らんで見えることがあります。
突出しているものが脂肪であれば、多くは無症状ですが、腸が突出してヘルニアの穴で締め付けられると、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が現れることがあります。
また膀胱が突出している場合、排尿障害が起こる可能性があります。
さらに、突出した脂肪が元に戻らずに壊死すると、炎症を引き起こすことがあります。
診断は犬を仰向けにして、鼠径部を触診することによって行われます。この触診により、突出している組織が圧力を加えることで元に戻るかどうかを確認します。これにより、ヘルニアの存在とその可逆性について初期の評価が可能になります。
さらに詳細な診断のために、超音波検査やX線検査などの画像診断が用いられます。これらの検査によって、ヘルニアの内容物や突出の程度を正確に把握できるだけでなく、腹腔内の他の異常も確認できます。
治療方法は、ヘルニアの大きさや種類、さらには犬の健康状態によって異なります。
穴が小さく、症状が見られない場合は治療をせずに経過を観察する選択肢もありますが、穴が徐々に広がり症状が重症化するリスクがあるため、なるべく早期に手術によって穴を閉じることが推奨されます。
またヘルニアが大きい場合や、臓器が閉じ込められている場合は、手術が必要になります。
手術では突出した臓器を腹腔内に戻し、鼠径部の開口部を縫合して閉じます。手術後は、感染を防ぐための適切なケアと、傷口の回復を促進するために安静が必要です。
特に先天的な鼠径ヘルニアの場合は、避妊手術や去勢手術の際に同時に鼠径ヘルニア整復手術を行うと良いでしょう。
鼠径ヘルニアは遺伝が原因とも考えられていますので、完全に予防することは難しいでしょう。
しかし早期に発見することで、症状が現れる前に治療を受けることが可能となり、手術の難易度も低く、より安全に治療を行えます。
特に先天性の鼠径ヘルニアは、子犬の時期に発見可能であり、避妊や去勢手術を行う際に同時に修復手術を行うことも可能です。
また、犬の適切な体重管理を心がけることで、腹部に過度の圧力がかかることを防ぎ、鼠径ヘルニアの発生リスクを減らせます。定期的な運動によって筋肉を強化することも、ヘルニア予防に役立つでしょう。
もし、愛犬の内ももの付け根に膨らみや異常を見つけた場合は、お早めに来院してください。
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