肝臓腫瘍は犬や猫では比較的珍しいものとされてきましたが、犬や猫の高齢化や超音波検査の普及によって、症例が増えています。
悪性腫瘍と聞くと予後が心配されますが、腫瘍のタイプや発生箇所によっては、早期に治療すれば良好な予後が得られることが期待されます。
今回は犬と猫の肝臓腫瘍について、症状や治療方法などを詳しく解説します。
■目次
1.原因|原発性、転移性、悪性、良性とさまざま
2.症状|基本は無症状。進行により食欲不振や嘔吐など
3.診断|転移を疑い全身の検査を
4.治療|手術で腫瘍を切除。年齢や全身状態によっては症状の緩和のみの場合も
5.予防|超音波検査は早期発見に有用!
肝臓にできる腫瘍には、「原発性」腫瘍と呼ばれる肝臓自体に起因するものと、他の場所にある腫瘍から肝臓へ転移する「転移性」腫瘍とが存在します。
原発性の腫瘍には、肝細胞由来の結節性過形成、肝細胞腺腫、肝細胞癌、胆管由来の肝胆管癌、胆管癌、血管由来の血管肉腫などがあり、犬では肝細胞癌が、猫では胆管癌が多いとされています。
ただ、犬や猫では、こうした原発性の腫瘍よりも、乳腺腫瘍、肺がん、悪性リンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫などによる転移性の肝臓の悪性腫瘍が一般的です。
肝臓腫瘍の具体的な発生原因は明らかになっていないものの、高齢の犬や猫に多いことが確認されています。
原発性の肝臓腫瘍はゆっくりと大きくなることが多く、基本的には無症状のまま進行し、健康診断時に偶然見つかるケースも少なくありません。
原発性の肝臓腫瘍では、進行により腫瘍が大きくなることで周囲の臓器を圧迫し、食欲不振や嘔吐などの症状が現れたり、おなかに触ったときに肝臓の辺りに膨らみが見られたりすることがあります。
さらに進行すると、黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)、肝性脳症からのけいれん発作などが見られます。
ただ、これらの症状が見られるころには肝臓の組織がかなりダメージを受けています。
また転移性の場合は進行が早く、それぞれ原発性腫瘍の症状が先に見られます。
黄疸についてはこちらの記事でも解説しています
一般的に転移性のことが多いため、肝臓に腫瘍の存在が疑われた場合は原発性腫瘍がないかを、身体検査、血液検査、CT検査を含めた画像診断などで確認します。
また、手術をした場合は、その後の治療プランを考えるためにも、切除した腫瘍を病理検査にかけます。
なお、肝臓の腫瘍を早期に発見するには超音波検査が有用です。
原発性で腫瘍が一部分のみの発生であれば、手術によって良好な予後が期待できます。
肝臓は「葉(よう)」と呼ばれる区画で区切られていますが、肝臓腫瘍の手術では腫瘍のある葉ごと切除します(肝葉切除)。
なお、手術の難易度は腫瘍の大きさや位置により異なりますが、肝臓はたくさんの血液が集まる臓器なので、出血に注意する必要があります。
年齢や全身状態から手術が難しい場合は、症状の緩和でQOLの向上を目指す治療を行います。
また、転移性の場合は原発の腫瘍の治療が必要ですが、予後不良であることも少なくありません。
原発性の肝臓腫瘍であれば、場所と大きさによっては早くに切除し腫瘍を取りきれれば予後は良好であることが期待されています。
予防自体は難しいですが、超音波検査は早期発見に非常に役立ちますので、健康診断の項目の1つに入れることをお勧めします。
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<参考文献>
van Sprundel RG, van den Ingh TS, Guscetti F, Kershaw O, Kanemoto H, van Gils HM, Rothuizen J, Roskams T, Spee B. Classification of primary hepatic tumours in the dog. Vet J. 2013 Sep;197(3):596-606.
van Sprundel RG, van den Ingh TS, Guscetti F, Kershaw O, van Wolferen ME, Rothuizen J, Spee B. Classification of primary hepatic tumours in the cat. Vet J. 2014 Nov;202(2):255-66.