小型犬に非常に多い膝関節の病気です。膝蓋骨が膝の内側に脱臼することで起こる病気です。触っても特に痛がる様子は無いでしょうけども、時折後ろに足を伸ばしたり、ビッコを引いたりする時は、大概歩行時に痛みを感じているのです。完治には手術が必要ですが、非常に繊細な手術が必要です。
全身麻酔をかけ、剃毛、消毒後、膝関節の皮膚を整理します。
薄い筋肉の膜もあとで利用していくので、丁寧に剥離していきます。
内側に脱臼している場合、靭帯、関節を包む膜は内側に縮んでいます。手術の際には一回内側の靭帯、関節の膜に切開をいれて、一度解放してあげます。切開する長さ、方向が正しければ、大概の症例はこれだけでも内側に外れないようになります。
慢性的な脱臼を起こしている症例では、膝蓋骨自体もミリ単位で形が不正になっている場合があります。こうやって膝蓋骨の形を整えて上げます。
別の犬膝の全体像です。
膝の溝の形に合わせて、理想な膝蓋骨の形にしていきます。
膝蓋骨内方脱臼の術式に関しては色々な方法があります。今回は岸上式プレートを使用します。当院での手術の多くの症例がこのインプラントを使用します。
膝の溝の内側にインプラントを設置します。先程溝に開けた穴にプレートをあてがい、位置を確認します。
専用のトンカチでインプラントを埋め込みます。トンカチのたたき方一つにも経験の差が現れます。
理想の位置にインプラントを設置しなければ、膝蓋骨と擦れ合って、余計に痛みが出てくる場合もあるので、位置決めは重要です。
先程切開をした内側の靭帯と関節を包む膜を縫合します。縫合糸のテンション、数、一つ一つで予後が変わって来るので慎重に縫合します。
靭帯と関節を包む膜の縫合がおわれば、かなり頑強な膝に生まれ変わります。
筋膜も縫い合わせ、縫合終了です。1週間ほどで退院です。しばらく安静です。
膝蓋骨が納まる滑車と呼ばれる溝がないタイプの手術です。靭帯や関節を包む膜を切開したり、縫合するのは変わりませんが、滑車の形を整えなければなりません。これもまた繊細な手術になります。
膝蓋骨の納まるべき滑車溝が発達しておらず常に脱臼を起こしている状態でした。
滑車の形を作る為、専用の骨ノミで溝の形を作っていきます。
さらにノミを進めて、滑車の一部を削り取り、本来の理想の形に作り変えます。
御覧のように、骨をくりぬき、膝蓋骨が納まるような溝をまず作ります。
削り取った骨片を彫金師のように削って、本来の溝の形にそうように整えます。
骨ノミで作った溝も、専用のローラーで掘り下げ、先程の骨片が丁度納まるようにします。
溝の形と、骨片の形がぴったり合えばもう2度とズレません。経験のなせる技です。
脛骨粗面移植という方法です。膝蓋骨が付着している膝蓋靱帯の太ももの筋肉が人体になり、その終着部は、すねの骨に当たる下腿骨の脛骨粗面と呼ばれる場所に付着します。この脛骨粗面を切り取り、そこよりも外側に移植することによって、内側に膝蓋骨が脱臼するのを防ぎます。この方法をメインでやる先生もいるようですが、当院では下腿骨に捻転が起こっている症例に用います。捻転を起こしていない症例に行った場合、膝の関節のアライメントは美しくない事が多くなると思います。
他の方法と同様に膝関節の皮膚を切開します。皮膚の下には薄い筋膜と間接包が見えます。他の方法と同様に関節を包む膜と靭帯に切開をいれますが、内側だけでなく外側も両側切開を入れます。
他の方法と異なるのは、脛骨粗面と言われる膝のやや下の骨に靭帯が付着しているので、周りの筋肉組織を剥離しないといけません。写真のように綺麗にはくりすると、移植もしやすくなります。
専用のサージカルブレードと言われる骨を切る鋸様の器具を使用して、脛骨粗面を靭帯が付着したまま一度剥離させます。
移植後、膝蓋靱帯が太ももからすねの方向にまっすぐになるように調整し、膝蓋骨がはまり込む滑車溝も形を整えます。
切り取った部位を、そこよりも外側に移植します。写真のように移植する場所に固定するため、ピンで止めます。こうすることによって、内側に脱臼する膝蓋骨を強制的に脱臼させないようにします。
切開した、筋肉、関節を包む膜、靭帯それぞれを縫合します。靭帯の走行がまっすぐになるように縫合するのがポイントで、どちらに偏ってもビッコはなおりません。縫合する場所、本数も症例によって異なります。