雄の胎仔の発育過程で睾丸(精巣)は胎仔の腹腔内にあるのですが、それは鼠径管(ソケイカン)と呼ばれる腹壁の開口部を通り抜けて陰嚢の中に降りてきます。
正常では、両側の睾丸は産まれる時、または産まれて間もなく陰嚢の中に下降します。時には5~6ヵ月齢まで下降が完了しないこともあります。
精巣は性ホルモンを分泌し、性成熟期になると精子をつくる生殖器官です。
通常、陰嚢は腹腔より温度が2~3度低くなっていて精巣を冷やす役割を果たしています。しかし体内に留まると、精巣が体温と同じ状態に温められて精子をつくることができなくなり、また性ホルモンの分泌も不十分で、性成熟しにくくなります。
もし片方の精巣が体内に留まり、もう片方が陰嚢内に納まっていても、単純に考えて、生殖機能も性ホルモンも半減していることになります。
停留睾丸(ていりゅうこうがん)の問題は、生殖機能の不全ばかりではありません。
精巣が体内に留まり正常に発達できないと、年をとるにつれて腫瘍になる確率が非常に高くなります。精巣腫瘍は転移しやすく、周辺のリンパ節に転移すれば、尿管や腸管を圧迫して排尿、排便がスムーズにいかなくなることもあります。
もちろん、陰義内に精巣が納まっていても腫瘍になることはありますが、その確率は停留睾丸よりもずっと低いです。
しかもその場合、精巣が腫瘍化して大きくなれば(もう一方の精巣が委縮することが多い)、目視や触診ですぐに発見して治療できます。
ところが体内、特に腹腔内にあれば、早期に発見することが難しく、手遅れになりかねません。そうなる前に体力のある若い時に摘出手術を行うことをお勧めします。
停留睾丸は小型犬やトイ種でよく見られます。
生後3カ月のチワワがワクチン接種で来院し、健康診断を行うと片側の精巣が降りていませんでした。
その後も狂犬病ワクチンやお手入れ、フィラリア予防などで定期的にご来院頂き、精巣が降りているかの定期チェックを行いましたが、片側の精巣は1歳を迎えてもお腹の中に留まったまま、降りてきませんでした。
今後の精巣の腫瘍化のリスクなども考え、通常の去勢手術と一緒に片側の腹腔停留睾丸摘出の手術を行いました。