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犬と猫の慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)|点眼治療だけではなかなか治りづらい病気

2024.03.18
犬の病気猫の病気

慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)は再生した角膜が正常に付着しないために発生します。この病気は、通常の角膜潰瘍と比べて治癒が遅く、治った後も容易に再発することが特徴です。
多くの角膜潰瘍は点眼薬の治療だけで回復することが一般的ですが、SCCEDsに罹患した犬や猫では、しばしば外科的な治療が必要となります。

今回は犬と猫の慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。

潰瘍性角膜炎についてはこちらで解説しています

■目次
1.原因|詳しい原因は不明だが、ボクサー犬に多い
2.症状|繰り返す角膜潰瘍。目のしょぼつきや涙
3.診断|角膜潰瘍が治らない原因を慎重に探す
4.治療|外科手術が必要
5.予防|目の様子をよく観察!異変があったらすぐに受診を

 

原因|詳しい原因は不明だが、ボクサー犬に多い


角膜は厚さが0.5mm程であり、外側から角膜上皮、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮で構成されています。

角膜は何らかの形で損傷を受けると、皮膚の傷が治るのと同様に自己修復します。
再生された「角膜上皮」はその下に位置する「角膜実質」に付着する必要がありますが、慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)の場合この接着がうまくいかず、角膜上皮がすぐに剥がれてしまいます
その結果、角膜の修復が妨げられ、角膜潰瘍が長引くか治っても再発しやすい状態になります。

SCCEDsの原因は完全には解明されていませんが、犬種による発症の傾向があり、特にボクサー犬に多く見られるため、「ボクサー潰瘍」とも呼ばれます。しかし、この病気はボクサー以外の犬種でも発生し、フレンチ・ブルドッグ、ウェルシュ・コーギー、ゴールデン・レトリーバー、トイ・プードルなどでもよく見られます。

 

症状|繰り返す角膜潰瘍。目のしょぼつきや涙


慢性角膜上皮欠損は痛みが強く、目のしょぼつき、涙の増加、充血、目やにが増えるなどの症状が見られます。

通常の角膜潰瘍は特に重度でない限り、1〜2週間程度の点眼薬による治療で改善することが一般的です。しかし、SCCEDsの場合、治療後の回復が遅れることが特徴であり、症状が治まったとしても、再発するリスクが高いとされています。

 

診断|角膜潰瘍が治らない原因を慎重に探す


角膜潰瘍が治りにくい、または治ってもすぐに再発する原因は慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)以外にも多岐にわたります。そのため、正確な診断のためには目の詳細な検査だけでなく、全身の健康状態を把握するための血液検査や内分泌検査なども含めて慎重に診断を進めます。

角膜潰瘍の診断には、フルオロセイン染色検査で角膜の傷を観察します。SCCEDsの場合、角膜上皮とその下層である実質の間に隙間が存在し、染色液がこの隙間に浸透して上皮下に染色されることが確認できます。この染色パターンは、SCCEDsの診断において重要な指標となります。

さらに、滅菌綿棒を用いて角膜上皮の剥がれ易さを検査する方法もあります。この検査では、綿棒で角膜の表面に優しく触れることで、角膜上皮が容易に剥がれるかどうかを確認することで診断できます。

 

治療|外科手術が必要


慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)に対しては、通常の角膜潰瘍に用いられる点眼治療だけでは十分な治癒が期待できないため、外科手術が必要となることがあります。
手術の目的は角膜上皮の再生を促し、それが角膜実質にしっかりとくっつくことを助けることです。

手術方法には、角膜に格子状の傷をつける格子状角膜切開術や、眼科手術用のダイヤモンドバーを使用して角膜表層の一部を削る手術があります。これらの手術により、角膜上皮の再生が促され、よりしっかりと角膜実質に接着するようになります。
手術は、点眼麻酔で行うことも可能ですが、犬や猫が激しく嫌がってしまう場合や、症状が重症の場合は、全身麻酔を選択することがあります。

また、滅菌綿棒を用いて角膜上皮を丁寧に除去した後、角膜を保護し治癒を促進するための治療用コンタクトレンズを装着し、場合によっては眼瞼縫合(上下のまぶたを一時的に縫い合わせる手術)を行うこともあります。

治療は数回行うことが多く、治療の効果の確認は5〜7日後に行われ、治療全体としては半月から1カ月かかる場合もあります
術後の管理としては、エリザベスカラーの装着で患部を守りつつ、点眼治療を継続して行います。

 

予防|目の様子をよく観察!異変があったらすぐに受診を


慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)の発生原因はまだ完全には解明されていないため予防は難しいですが、角膜に傷がある犬や猫では、片目をしょぼつかせる、涙が増えるなど、目に見えた異変が現れます

通常の角膜びらんや角膜潰瘍に比べ、SCCEDsの治療はより困難であり、点眼薬だけでは完全に治ることが難しいケースが多く報告されています。外科的治療を施すことで症状の改善が見込まれるため、疑わしい症状が見られた場合は病院で診断を受け、正しく治療を行うことが大切です。なかなか治らない角膜潰瘍がある場合は、SCCEDsを疑う必要があるでしょう。
角膜の傷が小さいほど治りも早いため、早期発見・早期治療が肝心です。

 

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<参考文献>

James-Jenks EM, Pinard CL, Charlebois PR, Monteith G. Evaluation of corneal ulcer type, skull conformation, and other risk factors in dogs: A retrospective study of 347 cases. Can Vet J. 2023 Mar;64(3):225-234. 

Bentley E. Spontaneous chronic corneal epithelial defects in dogs: a review. J Am Anim Hosp Assoc. 2005 May-Jun;41(3):158-65. 

 
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