尿崩症は尿がたくさん出る病気です。
尿は腎臓で血液から作られますが、はじめに腎臓で作られる原尿(おしっこの素)の99%は血液中に再吸収され、残りの1%が尿になります。
尿崩症の原因は、この再吸収を促す働きを持つバソプレシン(抗利尿ホルモン)の不足や、機能不全です。腎疾患が原因となることもあるため、猫では特に注意しておいた方が良いでしょう。
尿崩症はその原因から中枢性と腎性に大きく分けられます。
・中枢性:脳の下垂体から正常にバソプレシンが分泌されない。下垂体の腫瘍、外傷による下垂体の損傷、脳腫瘍による圧迫など
・腎性:腎臓に問題がありバソプレシンがうまく機能できない。腎臓病、腎盂腎炎など
ほかにも人では、精神的なストレスを原因とする心因性の尿崩症があり、動物も病気や激しいストレスなどから尿崩症を発症することがあります。
また、発症に際しては、性別や品種はあまり関係ないようです。
尿崩症の猫では、薄い尿がたくさん出ます。
体から水分が失われるため、喉が渇き、よく水を飲むようになります。
水をたくさん飲める環境であれば多飲多尿以外の症状が出ないこともありますが、水が不足すると脱水症状を起こします。
脱水になると引っ張った皮膚がなかなか戻らなかったり、目や口の粘膜が乾いたりします。
ひどい場合は痙攣や意識障害などにつながります。
多飲多尿には、慢性腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症、薬の副作用など、考えられる原因がたくさんあるため、まずは各種検査でそれらの疾患を除外します。
上記に加え、水制限試験という特殊検査を行うこともあります。
通常の病気であれば、水の摂取を制限すれば尿量は減りますが、尿崩症では大量の尿が作られ続けます。そのため、水制限試験を行うことで尿崩症かどうかを判断します。
中枢性と腎性の鑑別は、バソプレシンを投与した際の反応から判定します。
中枢性の場合、バソプレシンやそれと同じ作用を持つ薬の投薬が中心になります。
投薬が生涯必要な場合もありますが、脳腫瘍などで予後が悪いケースもあります。
腎性の場合は、原因疾患の治療を行います。
どちらの場合も、脱水を避けるためにたっぷりの水をいつでも取れるようにしてあげましょう。
尿崩症に対する予防法はありませんが、上記で解説した尿崩症の原因になるような疾患の予防が、結果的に尿崩症の予防につながる可能性があります。
特に、泌尿器系の病気を予防するには、水分摂取や適度な運動など、健康的な食生活は欠かせません。
また、交通事故や落下などが原因になることもありますので、室内飼いの徹底も予防につながるでしょう。
病気の治療は早期発見が重要です。尿量や飲水の様子に変化が見られたら、早めに受診しましょう。
当院では2022年11月1日から2023年2月28日まで「猫ちゃんの健康診断・定期検査キャンペーン」を開催中です。猫の尿崩症も検査で早期発見ができる可能性がありますので、この機会に健康診断・定期検査を受診してはいかがでしょうか。
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東京都練馬区に本院を置き、東京都内、埼玉県で4つの動物病院を運営しています
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<参考文献>
原田佳代子. 7.尿崩症. In: 犬と猫の腎臓病診療ハンドブック. 上地正実 監修. 2021 : pp.124-125. 緑書房.
Duperrier C, Fusellier M, Lenaerts H, et al. A case of central diabetes insipidus associated with a congenital cyst of the sella turcica in a young cat. JFMS Open Rep. 2020 Jul-Dec; 6(2): 2055116920935017.