炎症性腸疾患は慢性腸症(原因不明の下痢や嘔吐が3週間以上続く病気の総称)の1つです。
最近では免疫抑制薬反応性腸症(IRE)とも呼ばれ、腸粘膜への炎症性細胞の浸潤(細胞が、炎症の起こっている部位に集まってくる状態)が特徴です。
症状の程度は猫によりさまざまですが、重症化するとタンパク漏出性腸症を伴うこともあります。
猫の場合、嘔吐は正常でも比較的よく見られる症状ですが、繰り返す場合は炎症性腸疾患の可能性があるかもしれません。
炎症性腸疾患は、腸粘膜に浸潤する炎症性細胞の種類によって、主にリンパ球形質細胞性腸炎と好酸球性腸炎に分けられ、犬や猫では前者が非常に多いことが知られています。
リンパ球形質細胞性腸炎では遺伝や免疫などの要因が、好酸球性腸炎ではアレルギーや寄生虫感染などが関与しているのではないかと考えられていますが、いずれも詳しいことはわかっておらず、原因は不明です。
シャム猫に多いと言われていますが、どの猫でも起こりうる病気です。
症状は炎症が起こった部位によって慢性の嘔吐から下痢まで、さまざまです。
消化吸収が妨げられるため、痩せたり元気がなくなったり、継続する消化器症状から脱水が起こることもあります。
タンパク漏出性腸症を伴った場合は、低タンパク血症から体のむくみや腹水の貯留などが見られることもあります。
炎症性腸疾患は、考えられる他の原因をすべて除外して初めて診断できる病気です。
まずは、症状や身体検査に加えて血液検査やレントゲン検査、超音波検査など、各種検査を行い、慢性腸症を診断します。
その後、食事療法や抗菌薬療法によって、炎症性腸疾患以外の慢性腸症(食事反応性腸症、抗菌薬反応性腸症)を除外します。
また、内視鏡により消化管粘膜を採材(検査のために組織を採取すること)し、病理組織検査を行うことで浸潤している炎症性細胞を調べるとともに、消化器型リンパ腫を除外します。
炎症が見つかった場合は免疫抑制療法を試し、反応があったら炎症性腸疾患と診断できます。
治療は薬の投与を中心に行います。
薬の投与は、ステロイドなど免疫抑制作用のある薬剤で炎症を抑える目的で行います。
炎症性腸疾患は治癒が難しい病気で、長期間の治療が必要です。
生涯にわたって治療を継続する必要がある場合も少なくありません。
薬の量や種類は、猫の状態に応じて調整します。
残念ながら予防法はありません。
猫は嘔吐が多いため、「また毛玉を吐いたのかな」と見過ごされる場合もありますが、重症化すると命に関わることもあります。
たかが嘔吐と侮らず、嘔吐や下痢などの消化器症状が続く場合は、お早めに受診してください。
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<参考文献>
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Nicole Ewald, Frauke Rödler, Romy M Heilmann. Chronic enteropathies in cats – diagnostic and therapeutic approach. Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere. 2021 Oct;49(5):363-376.