慢性腸症は、3週間以上続く、または再発する原因不明の下痢や嘔吐を特徴とする犬の消化器病です。
犬で比較的よく見られる病気ですが、下痢や嘔吐の原因となる病気はたくさんあるため、診断には時間がかかります。
また、慢性腸症には食事や抗菌薬に反応して症状が改善するタイプとそうでないタイプがあり、タイプに合わせた治療が必要です。
慢性腸症は、小腸や大腸で慢性的な炎症が起こります。
炎症が起こる理由はわかっていませんが、腸内細菌叢(読み方:ちょうないさいきんそう、腸内に生息する細菌のこと)の乱れや自己免疫異常が関与しているのではないかと言われています。
本病は大きく3つのタイプに分けられます。
食事反応性
食事の変更で症状が治まるタイプで、食物アレルギーや食物不耐症もここに含まれます。
抗菌薬反応性
抗菌薬の投与で症状が治まるタイプ
炎症性腸疾患(IBD)
上2つに当てはまらず、免疫抑制剤の投与で症状が治まるタイプ
主な症状は3週間以上続く、または再発する下痢です。
このほか、嘔吐や食欲不振、元気消失、脱水、消化不良から食べているのに痩せるなどの症状も見られます。
慢性腸炎は特徴的な症状がないため、診断は消化器症状を起こす他の病気を除外することからはじめます。
血液検査や糞便検査、画像診断などで原因が特定できなかった場合に、慢性腸症が疑われます。
消化管の病理組織検査では、腸リンパ管拡張症や腫瘍との鑑別(疾患についてよく調べた上で見分けをつけること)ができます。
組織を採取するためには、内視鏡検査や、開腹手術における腸管の一部摘出が必要です。
臨床鑑別では、食事反応性、抗菌薬反応性、IBDを鑑別します。
食事療法や抗菌薬治療を行いながら、反応を見て鑑別します。
慢性腸症の診断には、多くのステップを踏むため、時間がかかります。
しかし、適切な治療を行うためには診断が非常に重要です。
食事反応性の場合は食事療法を行います。
なかには、症状が完全に改善した後に元の食事に戻すことができる場合もあります。
また、療法食では改善しなくても、手作り食で改善したケースもあります。
抗菌薬反応性の場合は、症状が改善した抗菌薬での治療を行います。
IBDは根治することが難しいため、生涯にわたって症状をコントロールする必要があります。
治療の中心はステロイドの投与になりますが、高用量での投与を長期間続けると副作用が強く出てしまうこともあるので、他の治療法も駆使しながら、ステロイドの投与量を減らし、休薬期間を設けながら使用します。
慢性腸症は大きく3つのタイプに分けることができ、再発する下痢や嘔吐の症状がみられる病気です。
特有の症状がなく、診断には時間がかかりますが、適切な治療を行えば犬のQOL(生活の質)を改善できますので、しっかりとした診断のうえ、治療を行いましょう。
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