家の内外を自由に動き回る上、気ままな性質の猫。 猫自身は自分から避妊手術を受けたいなんて一つも思っていないでしょうから、術後も問題なくいつも通り自由な生活を送ることができるようにしてあげたいですよね。 そのためには、「傷は出来るだけ小さく、猫自身も気にしないほど目立たないようにすること」。これが最も望ましいことは誰しもが考えると思います。 しかしながら実は、技術面を抜きにしても傷(手術創)の大きさが動物病院によって様々だってご存知でしたか? 今回はこの理由についてお話ししたいと思います。
ここでは手術の内容を、最も一般的な避妊手術方法である「子宮卵巣全摘出術」で統一してお話しするようにします。 通常は体重2~5kg位の若齢猫から成猫に対して手術を行うことが一般的で、小さい傷で1cm弱、大きな傷になると5~6cmになります。 この傷の大きさの違いを知ると「猫って大体同じ大きさなのにどうしてこんなに傷の大きさが違うの?」と感じられると思います。 傷が小さいからあの先生手術が上手なのだわ!と感じる方もいることでしょう。
1cm程度の傷ではもちろんお腹の中に手を入れることも出来ないですし、子宮と卵巣を取り出すことすら難しくなります。 ではどうやってそれらを摘出するのかというと、「子宮つり出し鈎(しきゅうこう)」という専用の手術器具を使うことで解決できます。 子宮つり出し鈎は「鈎」という名前のごとく先端が湾曲した棒状の器具であり、これによって子宮と卵巣を引っ掛け、開けたお腹の穴から「つり出す」のです。 傷つけてはいけない血管や摘出部分のみ穴から見えるようにつり出した上で出血しないように切除し、摘出しています。 この手技により、必要以上のお腹の傷の大きさがなくとも手術を終えられるのです。 この手法で手術を行うメリットは、猫自身が傷を気にしにくくなることと、傷を舐め壊して裂開してしまうリスクが最小限に抑えられることだと思います。 逆にデメリットは、手術するお腹の中を手術部分以外に目で十分確認できないことです。 十分確認できないということは、見えない部分で血管を傷つけて出血させたことを見逃してしまったり、思わぬ奇形があってお腹の中の構造が通常と異なっている場合に対処に遅れが生じたりするのです。
もちろん技術の差で傷が大きくなることもあります。 しかしながら、そういったことが理由になることは少なく、初めから5~6cmお腹を切ってお腹をしっかり開けて手術する獣医師もいるのです。 なぜかというと、お腹の中をしっかり目で確認することで、さらにミスのない確実な操作ができるようになるからです。 1cmの傷で手術をするときに心配される、見えない血管を傷つけたり奇形を見逃したりすることはまずありません。お腹の中全体を見渡して、手術部分以外にも異常はないだろうか、とチェックすることもできるのです。 心配される点は傷が大きくなることで痛みが大きいのではないかというところですが、避妊手術の傷を術後に痛がってしまう猫は一概に傷の大きさに比例しているとは言えません。 きちんと傷を縫合し閉鎖してあれば、傷が治癒するまでの期間はいずれも1週間から10日ほどで、意外にも差はないのです。
安全性だけで言えば大きくお腹を開けたほうが良いはずです。 しかし、子宮つり出し鈎を使用しての手術は圧倒的に傷が小さくでき、傷の裂開が起こるリスクが最小限に抑えられます。 また、このつり出し鈎による手術は多くの獣医師でしっかりとした技術を身につけられていることが多く、スムーズに手術を行うことができれば、大きくお腹を開けるのと変わらない時間で終えられます。
メス猫に避妊手術をおこなった飼い主さんは、傷の大きさや見た目で判断しがちですが、実はそれが全てではなく、それぞれ獣医師の考えや猫に対する想いがあっての傷の大きさなのです。 そのため、傷の大小は実際には技術や痛みに関係ないと言っても過言ではありません。
これらのことを踏まえて、手術内容を獣医師に相談してみてくださいね。