マイクロチップはメス猫の避妊手術と直接の関係がないように思われる方が多いと思います。 しかし、マイクロチップを入れようか迷われている方や避妊手術を考えられている方には、ここでのお話を十分生かしていただくと良いと思い、お伝えすることにしました。 懐いている我が仔が急に脱走していなくなってしまうなんてことは普通の生活の中では考えにくいでしょうが、近年頻発している震災が他人事ではないこの日本では、いつどのようなタイミングで離ればなれになってしまうかわかりません。 そんな時にマイクロチップが大切なのだと感じているのです。
マイクロチップとはその子の飼育情報が入っている名札のようなもので、マイクロチップ1つに対し、国・メーカーコード、動物種コード、個体番号等を組み合わせた世界でただ一つの個体識別番号が標識されています。 大きさは直径約2mm_長さ約12mmの長細いカプセル状の形をしたもので、これを、動物の首から背中につながるあたりの皮膚の中に注射器のような挿入器で埋め込むのです。 マイクロチップに書かれている番号は、専用のリーダーという器具を使って読むことができます。マイクロチップ自体は電源を必要とせず、生体に拒否反応の起きにくい素材で覆われているため、一度動物の体内に埋込めば一生交換する必要はありません。 現在、日本で扱うマイクロチップはいずれもISO(国際標準化機構)規格のもので互換性があるため、世界中のどこにいても1つのリーダーで読みとることができます。
マイクロチップの挿入は、獣医療行為にあたるため、獣医師のみできる処置です。 上の写真のように、注射器のような形をした挿入器の中にマイクロチップが入っており、注射するのと同様のやり方で針先を皮膚の中に差し込んでマイクロチップを送り込むのです。 ワクチンなど通常の注射をする際の針と比べてみると10倍くらい太いように感じられます。 注射程度の痛みで済む、と、どこの病院でも説明されることが多いのですが、これほど太い針では全く痛くないとは言えないですよね。 猫は犬と比べても、特に痛みを伴うような処置を嫌がることが多いため、嫌がらないように工夫することが獣医師には求められます。
見た目からだととても痛そうなマイクロチップの挿入。 どんなに工夫しても猫が起きている状態だと嫌がることは必至です。 そんな時にお勧めするのが避妊手術で麻酔がかかっている際に挿入するというもの。 避妊手術自体はメス猫の体を仰向けにして行われるため、最初に麻酔で眠り始めたら、態勢を仰向けにする前に挿入するか、もしくは手術が無事に済んだ後に眼が覚め始めるまでの間で挿入するのがタイミングとしてはとても良いのです。 麻酔で深く眠っている間は痛みは全く感じていませんので、安心して獣医師にお願いしてみると良いでしょう。
マイクロチップは欧米やオーストラリアで広く普及しており、ペットの飼育においてマイクロチップの挿入が義務化されている国もあります。 一方、日本での普及率は非常に遅れていて、日本のペット飼育頭数とマイクロチップ登録数から試算すると1%に満たないと言われています。 最近では、ペットショップで販売する前にマイクロチップの挿入が済んでいるケースもありますので今後の普及率は上がっていくものと思われますが、獣医師が積極的に声かけすることはもちろん、飼い主さんそれぞれが意識していかないといけない課題でもあると感じています。 またペットと一緒に海外旅行をした場合、日本の検疫制度ではマイクロチップ挿入を条件に、入国時の係留期間が12時間以内に短縮されました(旧制度では14~180日)。 このようなメリットもあるので、ぜひ検討してもらいたいと思います。