以前、実際に経験したお話しです。
ある飼い主さんが他の方から避妊手術は済んでいるとのことでメスの保護猫を譲り受けました。 譲った飼い主さんも動物病院で直接依頼したわけではなく、何人かの人の手を介して猫が譲渡された経緯もあり、どの病院でどのように避妊手術されたかすらわからない状況になっていました。 そんな猫ちゃんが飼い主さんの元で生活するうち、発情の兆しが見られるようになったのです。 昼夜構わず急にギャーギャーと鳴くようになり、去勢された同居の雄猫に対してお尻を向け誘いをかけているのです。そんな行動が2〜3週間おきに一定間隔で見られました。 「どう見ても発情しているとしか思えない」 その飼い主さんは疑問に思い、動物病院へ相談に行きました。 「この仔は避妊手術済みだと聞いて引き取ったのですが、どうも発情が見られるのです。先生、この子は本当に避妊手術されているのでしょうか?」 このような場合のように、お腹を開けずして避妊手術済みかどうかを見分けるための幾つかのポイントをお話ししたいと思います。
このチェックポイントは比較的簡単にできることなので、ぜひ最初に見てもらいたいところです。猫にほとんど負担をかけることがないので気軽にチェックできます。 コツは毛をしっかり刈ること。体を左右に分ける中心軸を頭から尾に向かって引いたとして、その軸に沿ってお腹の毛を刈ってみましょう。お腹の皮膚が綺麗に確認できるくらいになれば充分で、その皮膚に白っぽい一筋の線が確認できればお腹を開けた証になります。保護猫でお腹を開けた跡があるケースはまずほとんどの確率で避妊手術の跡です。95%、いやほぼ100%避妊手術の跡といっても過言ではありません。なぜなら、保護猫では避妊手術以外の手術がなされているという理由が見つからないからです。
性ホルモンは通常、エストラジオール(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類が外部検査機関に依頼して測定できます。 採血さえできれば比較的簡単に行える検査の一つですが、発情のサイクルによって値が変動してしまうので、100%確定することがやや難しくなります。限りなくグレーゾーンのままで判断がつかない場合もあるため、性ホルモン値の測定以外のチェックポイントと複合して判断することが必要になります。
触診で見極めるというのは獣医師の技術に頼るしかありませんが、これも非常に重要なチェックポイントになります。 普段から内臓を腹部の外側から触ることで内臓の各臓器の形状を感じることができるようになります。発情期の子宮は5mm程度の太さに膨らみ、硬く張ったようになることから触診で感じられやすくなるので、はっきりとわかるようになります。しかしながら、発情期でない時の子宮は細く3mm程度しか太さがないため確実に感じ取ることができないケースもあります。
以上のチェックポイントを総合して考えると、 腹部の傷跡、性ホルモン値の測定、腹部の触診を全て行うことで避妊してあるかしていないかを限りなく判断することができるようになるのです。 不安な点もあるとは思いますが、獣医さんとよく相談して判断してください。 最終的にはお腹を開けて再確認することも必要になるかもしれませんから。