これから避妊手術をうけるメス猫、すでに避妊手術をうけたメス猫、いずれの飼い主でも麻酔をどのようにかけるのかは中々わからないものです。
「麻酔はリスクがある」ということは聞いていても、あまり現実味はないかもしれません。
では、実際に麻酔をかける際の手術室の様子や安全のための取り組みというのはどのようなものなのでしょうか?
吸入麻酔のメリット
猫の避妊手術は通常、「吸入麻酔」を用いて行います。
吸入麻酔では、気道の中に柔らかいチューブを挿れ、そこから麻酔薬を送り込んであげることで猫に麻酔をかけます。
この方法であれば、
肺に麻酔や酸素を安定して送ってあげることが出来ますし、麻酔中に気道がふさがって窒息してしまうことを防ぐことができます。
また、人工呼吸器につなげることで、呼吸のコントロールを我々が行うことが出来るようになるという利点もあります。
そのため、吸入麻酔をかける際には、まずは気道の中に気管チューブと呼ばれるチューブを入しなくてはいけません。
でも無理やり気管チューブを口の中に入れて…なんて事はもちろん出来ませんので、処置の前には鎮静剤や麻酔薬を注射で投与するのです。
そして、
麻酔前投与薬や麻酔導入薬と呼ばれるこれらの注射薬は、猫を大人しくする他にも大事な役割があります。
麻酔前投与薬の役割
手術中の麻酔薬の目的というのは一つではありません。
猫を眠らせる。
手術の痛みをとる。
筋肉の緊張を和らげる。
有害な神経の反射を抑える。
しかし、
これらすべての目的を、吸入麻酔薬のみで満たすことは実は出来ないのです。
無理をすれば多量の麻酔薬が必要になり、猫を危険にさらすことになります。
そこで、麻酔前投与薬の役割が必要になってきます。
吸入麻酔の前に投与する注射薬は鎮静作用を持つ薬剤のみではなく、心拍数の低下を防ぐ作用や、痛みを和らげる作用のある薬剤を一緒に投与します。
そのようにして
吸入麻酔の働きを補うことにより、麻酔の使用量を減らしたり、副作用を抑えてあげることができているのです。
これも安全に麻酔を行うための工夫の一つなのです。
麻酔導入と気管挿管
注射での鎮静を行うと、猫は段々と力が抜け、口を大きく開けても嫌がらなくなります。
そのような様子がみられたら、喉頭鏡と呼ばれる器具で喉の奥を照らしながら観察します。
喉にはもちろん食道もありますので、目で気管をしっかりと確認しながらチューブを挿れていいくのです。
気管チューブの先端にはカフと呼ばれる風船が付いており、これを膨らませることで気道を密閉することができます。
送り込んだ酸素や麻酔薬は他へ漏れ出ることなく肺へと流れ、猫の状態に合わせて細かい麻酔量の調節が可能になるのです。
こうして正確に気管に挿入されたチューブから、酸素と麻酔薬を調整しながら送ってあげることで、安定した麻酔をかけることができているのです。
まとめ
円滑に麻酔の導入が行えても、麻酔をかけたら必ずしなくてはいけないのが、猫の状態を正確に把握することです。
心電図や血圧、体温、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)など、いくつもの項目を麻酔中は常にチェックしています。
どんなに安全への取り組みをしようとも、麻酔に絶対安心はないのです。
異変があればすぐに対応できるよう、これらのモニターには目を光らせながら手術を行っています。