年老いた愛するペットが、もし乳腺腫瘍になったら・・。 ” しこりは取ってあげたい。でも動物病院では避妊手術も同時に行うことを勧められた。 そんなにいろいろやって年老いた我が仔の体へ負担にはならないのだろうか? 手術時間がかかれば、麻酔は大丈夫なんだろうか? ” そんな不安が大きくのしかかることと思います。 私の働く動物病院でも、そんな不安を抱えて転院されてくる方が比較的多くいらっしゃいます。 よって今回は老齢期における避妊手術を含めた手術の考え方についてお話ししたいと思います。
乳腺腫瘍は高齢期のメス犬に多く見られる腫瘍です。 まずは、乳腺腫瘍と避妊手術の関係については以前にもお話しましたので、以下を参考にしていただければと思います。 https://www.hikarigaoka.net/474 簡単にご説明しますと、 「早期に避妊手術(卵巣摘出)をすることで、発生母地である乳腺組織の発達を抑え、発情による乳腺組織の刺激をなくし、乳腺がんの予防効果が得られる」とされています。 具体的には、 避妊手術を行なった場合、未避妊犬の乳腺腫瘍発生率を100%とすると、初回発情前の避妊手術実施で0.05%、2回目発情前で8%、2回目の発情以降で26%まで発生率が下がると報告されています。 このデータを見る限り、早く避妊手術をしてしまえば乳腺腫瘍の心配がかなり軽減される、ということがお分かりですよね。 ただ今回は、避妊手術させる予定でなかった我が仔が乳腺腫瘍になってしまった場合にどうするべきか、ということに焦点を当てていますので、ここでは関係ありません。 大事なのはこの事実。 「乳腺がん切除時に同時に避妊手術を実施することで予後が良くなるという報告もありますが、実際は未解明な部分である」ということ。 これをどうとらえるかが、獣医療業界で意見が分かれるところなのです。
つい先日も、ある飼い主さんに相談されました。 「13歳を過ぎたうちの子に乳腺腫瘍ができてしまった。他の病院で一緒に避妊手術も勧められたけれど、この歳で本当に手術したほうがいいのかしら?麻酔だって手術で完治する可能性だって100%確約されるとは言えない訳だし、この歳で手術をするメリットがどうも感じられなくて・・。」 確かにその子に見られた乳腺腫瘍は2〜3箇所あったもののいずれの大きさも米粒〜小豆大くらいでまだまだ小さいものでした。しかも1年前くらいからあったかもしれない、とのこと。 進行期間を考えると非常にゆっくりであり、経験的に良性である可能性が考えられました。 乳腺腫瘍には良性と悪性があり、その発生比率は50%ずつ。半々の可能性なので、その組織を調べない限りは事前に判断することはかなり難しく、見た目での判断は賭けのようなものであることを飼い主さんには伝えていますが、進行や大きさである程度経験的に判断することは可能です。 結局その飼い主さんは乳腺腫瘍も避妊手術もせずに、定期検診にとどめることを選択されました。 また他の選択肢としては、避妊手術はせずに腫瘍のみ摘出したりすることもあります。 腫瘍自体が大きくなってきて、心地よく生活できない問題が発生した時などはこの判断を選択する場合があります。 避妊去勢をテーマにお伝えしているこのブログを書いている獣医師でもこんな判断をすることはあるのです。
あくまでペットとの関わりは「お互いが一生を幸せに過ごせること」だと思っていますので、年老いてからの外科手術が必要な病気になった時、どの選択肢が一番幸せに今後を過ごせるのか、ということをまず考えて判断されることをお勧めします。