メス猫の避妊手術はオス猫の去勢手術と異なり、表層だけでなく体の内側の腹膜を切開し、腹腔内に通づる術創を作る必要があります。 そう言った点では、去勢手術よりは感染にはより気を付けなければなりません。 感染の防止は手術器具の滅菌を徹底して取り行うことが一番です。 理論上、無菌下での手術であれば、感染は起こりえません。 ただ一般的な避妊手術において、完全な滅菌状態で手術を行うのは不可能ですので、感染のリスクを「0」にするために、ほとんどの場合抗生剤を使用します。 ただ、臨床の現場に携わる獣医師の悩みとして、猫に抗生剤を使用した時に、副作用以外の猫特有の困った反応に悩まされることがあります。 今回は、術後に内服として処方した抗生剤によってでてくる、喜ばしくない猫の反応をご説明します。
動物病院で使用する薬の大半は人用の薬を猫の体重に合わせて使用してます。 苦みや刺激があるような薬は糖衣錠もしくはカプセルなどでコーティングされ、服用する際の不快感を軽減するようにできていますが、猫の体重に合わせようとすると分割もしくは粉砕して粉末にする必要があります。
したがって、もろに苦みや刺激の成分が表面に出てくるため、食事に混ぜると嗜好性が著しく低下し、とたんに食べなくなってしまいます。 特に退院後の食欲が落ちているような状況ではその影響が出やすいため、水やシロップに溶かして直接飲ませる必要が出てきます。
薬を直接飲ませた場合によく出てくる症状です。 上に書いたと通り、人用の薬を分割、粉砕して処方するので、薬を直接口に入れた場合、猫によっては大量のよだれが出始め、半日ぐらい止まらない場合もあります。 よだれが出て来たら、投薬を中止して様子をみるしかありません。 特に副作用ではないので、体に与える影響はありませんので、見た目は非常に心配になるのですが、あまり心配しなくて大丈夫だと思います。
抗生剤は、細菌に対して作用するのですが、いわゆる善玉、悪玉の両方に作用します。 手術後に悪い影響を与える菌だけに作用すればいいのですが、残念ながら腸内細菌の善玉菌にも作用します。 抗生剤によって腸内細菌叢が崩れてしまうと、便が軟便になったり、下痢になったりすることがあります。 こういった場合は整腸剤が必要となるケースもありますので、投薬を中止して獣医師の指示を仰ぐようにしていただいた方がいいと思います。
薬を投薬した影響以前の問題で、飲のませられないという飼い主様も結構いらっしゃいます。 もともと猫に何かをするのは何でも大変なことが多いと思います。 どうしても無理な場合は、手術の経過によってですが、投薬自体をやめて様子を見ていくしかないでしょう。
最近、2週間ほど抗生剤の効果が持続する注射薬が販売されるようになり、術後の経過として使用する獣医師も増えてきました。 どうしても投薬が無理な場合は注射薬を使用することも多いのですが、個人的な意見でいえば、避妊の術創は極めて小さく、感染を起こすことはほとんどないと思います。 術後処方された抗生剤で何かしら不具合を感じたら、投薬をやめるのが一番猫に負担がない方法かもしれません。