メス犬を飼われている皆さん、こんにちは。 今までにも動物病院で、「避妊手術しないと『子宮蓄膿症』になるリスクがありますよ」と説明されたことがあると思いますが、それでもこの病気がどれだけ恐ろしく予防に勝るものはないということに、実感がわかない方も多いと思います。 今回はこの「子宮蓄膿症」という病気が一体どんなものなのかを、獣医師の立場でわかりやすくご説明したいと思います。 この病気の恐ろしさについて知っているのといないのとでは、避妊手術に対する考え方がきっと大きく変わることでしょう。
子宮蓄膿症は簡単に言えば、子宮の中に膿汁が溜まってしまう病気です。 メス犬では比較的よく見られる疾患で、性成熟した成犬であればどの年齢でも見られますが、主には5~6歳以上の中高齢犬が大半を占めます。
症状としては、
このような症状が上記のうち2~3個でも見られたら子宮蓄膿症を疑っておいたほうが良いでしょう。 獣医師であれば、体調不良で来院したメス犬で未避妊の仔だった場合はまず子宮蓄膿症がないかチェックしているはずです。
この病気は、性周期に関わるホルモンの影響によって発症しやすくなると言われています。 その中でも特に大きく関わるのが黄体ホルモンで、このホルモンの作用によって子宮内膜が肥厚する変化が起こります。 実はこの変化、形態的に細菌が入り込みやすい状態となっています。さらに、黄体ホルモンは子宮内の免疫抵抗力を減退させるために容易に感染を起こし、結果的に子宮蓄膿症になるのです。 性周期の中で妊娠が成立した場合、肥厚した子宮内膜は出産とともに剥がれ落ちてリセットされますが、妊娠しなかった場合は子宮内膜が完全にはリセットされず、発情期ごとにさらに肥厚していくために子宮蓄膿症になりやすくなります。 「一回でも出産したら子宮蓄膿症にはならない」といったウワサがありますが、これは誤りです。出産後でも避妊手術せずにただ発情をくりかえしていると、いずれ病気になる可能性が高くなるのです。
子宮蓄膿症は、重度の化膿性疾患です。 感染の原因になっている細菌の80%は大腸菌で、肛門や外陰部領域から子宮内に侵入していると言われています。 治療が遅れてしまうと、
このようなとても危険な状態に陥ります。 こういった理由より、診断がつき次第できるだけ早い段階で外科的に手術することが望ましいのです。 すでに死に直面しつつある場合は、その状態を少しでも改善するための治療を行いながら、なるべく早期に子宮と卵巣の摘出手術を行います。
これで皆さんは「子宮蓄膿症の恐ろしさ」についてご理解いただけたかと思います。 こうなる前にも、わが仔が若く元気なうちに避妊手術するのがベストだと自然と思うことでしょう。