犬の避妊手術を考えるにあたって、必ず考えてもらいたいのが全身麻酔のリスクについて。
しかし、この麻酔のリスクというのは全ての犬で同じではありません。
高齢や肥満であったり、心臓病などの持病をもっていたり、危険性を高める理由は様々です。
なかでも私たち
獣医師が全身麻酔をかけるときに注意しているのが「短頭種」といわれる犬種達です。
短頭種とは
短頭種とはいわゆる「鼻ぺちゃ」の犬種のこと。
代表的な犬種は、
パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、シーズー、ペキニーズなど。
猫でもチンチラなどは短頭種に挙げられます。いずれもその愛くるしいルックスに人気が集まっています。
また、チワワなどの犬種でも、極端に鼻の短い犬では同じような特徴をもっている場合があります。
短頭種の特徴
その独特の顔の形から、目の病気や皮膚の病気など、短頭種では発生の多い病気がいくつかあります。
そして、特に麻酔と関わりの強いものが
呼吸器の病気です。短頭種の犬では上部気道に解剖学的な異常をもっていることが多いのです。
- 鼻の孔が狭い
- 軟口蓋の過長
- 気管の入口が狭かったり、変形をしている
軟口蓋の過長とは、鼻と口を隔てている上顎の最奥部分(軟口蓋)が大きすぎて口の中に垂れ下がったりすることです。
これらの短頭種における上部気道の異常を総称して「
短頭種気道症候群」と呼びます。
短頭種気道症候群の症状
この短頭種気道症候群のわかりやすい症状が、ガーガーとかゼイゼイといった特徴的な呼吸様式です。これは部分的に上部気道がふさがれ、強い呼吸が必要なために生じます。
高温多湿の夏場や興奮時にはさらに悪化をみせ、窒息や失神、熱中症などを引き起こすこともあります。
このように、短頭種は興奮や高温多湿に弱く、
麻酔をかけていなくても、熱中症や呼吸困難を引き起こしやすいという弱点をもっているのです。
麻酔でのリスク
犬の全身麻酔での死亡原因として重要なものに「気道閉塞」と「循環不全」が挙げられます。
日常生活の呼吸でも精一杯ですので、
短頭種では特にこの気道閉塞が発生しやすくなっています。
避妊手術での吸入麻酔では気道がふさがるのを防ぐために気管内挿管を行いますが、気管チューブを挿入するために麻酔をかけるときと、麻酔から回復して気管チューブを抜管するするときは、気道閉塞や呼吸困難を引き起こす最も危ない時期となります。
また、短頭種は迷走神経(体内の環境をコントロールしている神経)の緊張が強いといわれています。この迷走神経が、手術の痛みやストレスなどによって過度に刺激されると、急激な心拍数や血圧の低下を引き起こします。
これらの原因から、
短頭種では他の犬種に比べて麻酔中での心肺停止や気道閉塞の発生が多い、という報告がされているのです。
そのため、動物病院では
- 麻酔をかける前に十分な酸素吸入(酸素化)を行う。
- 呼吸機能がしっかり麻酔回復するまで気管挿管を維持し、気管チューブはギリギリまで抜かない。
- 鎮痛剤で術後の痛みやストレスを出来る限り軽減させる。
などの、短頭種における麻酔管理の安全性を高める試みが行われています。
まとめ
重要なのは短頭種の避妊手術を回避することではなく、これらの情報を獣医師と飼い主がしっかりと共有することです。
獣医師はこれらの情報を飼い主に十分に伝える役割があります。
そして飼い主には、手術をうける犬の特徴をしっかり理解してもらった上で、手術のメリットやデメリットを考えてもらいたいと思っています。