メス犬を飼っていらっしゃる方の中には、避妊手術を受けさせようと思ったタイミングに発情の出血が来てしまった、という経験がある方がいらっしゃると思います。 このような時はそのまま避妊手術を計画通りに行ってしまうか、延期した方が良いのか、迷ってしまいますよね。 そんな方々に、発情における認識と、避妊手術行うべきかの判断をお伝えしようと思います。
犬の発情というは、皆様はどのように認識されていますか? 「メス犬は発情すると、陰部からじわじわとにじみ出る出血がしばらく続くから、その間は他のオス犬に近づかないように気をつけていないといけない」 と考えられている方が多いと思います。 実はそうではないのです。 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、 犬における発情というのは正確な発情周期用語からすると、「発情前期」と言います。 発情前期は排卵前の段階で、人でいう生理出血とは異なります。 人での生理出血は排卵後妊娠しなかった場合、より良い子宮内膜を作るべく子宮の状態をリセットするために古い内膜面が溶けて出血とともに剥がれ落ちます。 これに対して犬の場合はどうかというと、同じ出血といえども生体反応的には正反対となります。 排卵前にオス犬を受け入れやすくするため、膣や子宮の内壁面が厚く浮腫状に膨らみ充血します。その時の出血が発情前の出血として見られるのです。 排卵後の現象である人と、排卵前の現象である犬。同じ出血とは言ってもぜんぜん違う現象なのですね。
それでは、発情前の出血が始まった場合、そのまま避妊手術をしても良いのでしょうか? この点については、完全に避妊手術を回避しなくてはならないということはありません。 しかしデメリットとしてあげられる点を理解した上で手術を選択するということになります。 デメリットとしては、 「子宮全体の血流が増えることにより手術操作により出血しやすく、子宮自体も2割程度厚みが増し大きくなるためより大きな腹部切開が必要になる」 出血しやすくてより大きな傷を加えることになるとなると、通常の場合「延期しましょうか」という話になります。ワンちゃんのことを思えば、あえて出血しやすい時期を選んで手術に望まなくても良いという判断になるのです。 とは言っても、出血なく上手に手術をされる獣医さんもたくさんいますし、理論上は特にこの時期の手術が禁忌とはならないのです。
発情前出血中でも避妊手術は可能ですが、上記であげたデメリットがあることであえて積極的にこの時期に避妊手術をしましょう、とはならないのです。 飼い主さんの飼育上の都合など、どうしてもこのタイミングでなきゃいけない、ということがない限りは延期された方が無難でしょう。 リスクは限りなく少ない方が良いはずです。 避妊手術をさせるとしても、焦らずにゆっくり計画していきましょう。