今回、猫ちゃんの去勢手術をやろう“と決断するために第1の不安だと思われる麻酔について考えてみたいと思います。 まず、麻酔とは何のためにするかです。 去勢手術は他の手術同様外科手術のため、体にメスを入れるわけなので、当然痛みを伴います。痛みを我慢することや抑えつけられて動かさないようにする体勢の維持など動物にはかなり困難なことが多いため、それをかなえる「麻酔をかける」という考えにいたります。麻酔はそれでも怖い!と思う方は多いと思います。 では実際、獣医師は麻酔中動物をどのように慎重に見ていてくれるのか?麻酔がかかっているということが、どういう状態なのかを知ることができれば、もう少し安心していただけると思います。というわけで、麻酔時の獣医師のチェックポイントを説明します。
その前にまず、麻酔前の状態を知ることです。麻酔中の危険度を把握するのにおおいに役立ちますので、ここから行います。検査前には各動物の情報をきっちりお聞きしてカルテに記載することです。犬の種類や年齢、性別はもちろん、アレルギーやもともともっている病気の有る無し、手術をしたことがあるかどうか、そして入院するときに重要なワクチン、フェラリアの予防をカルテに書きます。 その後、実際身体検査、血液検査を行っていきます。猫の去勢手術の場合も通常、動物の粘膜や皮膚の状態で、貧血や脱水をチェックしたり、心臓の音や肺の音を聴診したり、リンパを触ったり、お腹を確認したりなどの一般的身体検査、血液検査(最低でも腎、肝の項目)を行っていきます。
次にいよいよ麻酔をかけているときの獣医師の確認ポイントです。
以下は獣医麻酔外科学会というもので、公的に推奨している内容です。
①麻酔のチェック まずは麻酔薬の確認です。導入薬といってまず動物を眠らせます。使う薬の種類、量などをカルテに明記します。 ②動物の状態のチェック 麻酔中の動物の状態を見たり触ったりして看視します。手術をしている間の瞳孔の大きさや呼吸の回数、筋肉の緊張度などです。 動物が眠った後、寝ている状態をキープするため、ガスを用いて維持することが多いです。猫の去勢は手術時間が短いため、ガスを吸引しないこともよくあります。 ③循環状態のチェック 心拍数、血圧の測定です。動物が眠った後、体にモニターをつけます。これで随時、状態をチェックします。 ④酸素化のチェック 可視粘膜(舌や歯茎など)の色を看視します。麻酔中は血圧や血流状態が下がりやすいので、体に酸素がきちんとめぐっているかをみています。 ⑤換気チェック 胸がきちんと膨らんでいるか呼吸音はきちんとしたものかをみています。 ⑥体温チェック 随時体温を計り、下がりすぎていないかみます。 下がりすぎている場合は、動物を温めるなど対応し、深く麻酔がかかりすぎないようにします。 ⑦筋弛緩チェック 筋肉の緊張を和らげる薬を使う場合は反応をみます。 ⑧麻酔回復期の動物のチェック 麻酔を終了した後に自分で頭をあげられるようになるまで定期的に確認します。
以上のように、麻酔は動物にかなりのストレスがかかるものであるため、麻酔をかける前も麻酔からさめた後も慎重にみるようにしています。 安全に手術を終えることができるようになるための麻酔を少しでも安心して受けていただければ幸いです。