犬を飼い始めて、そろそろ去勢手術を考えていた矢先、ふと犬の睾丸をみると、 「1つしかない!?」 なんて経験の方はいませんか?もしくは、 「1つもない!?・・・女の子じゃないよね?」 という方もいると思います。 始めて犬を飼う方、今まで何頭か飼ったことのある方ももちろん、オス犬にあるはずのモノがないと不安になるでしょう。
1つもしくは2つとも精巣が睾丸部分にないことを、「停留精巣」と言います。 もともと精巣はお腹の中から睾丸部分に移動し降りてきて完成です。人間の赤ちゃんは生まれる前にお母さんのおなかの中にいるとき、胎児のときにその過程が終わりますが、犬は生後~2か月でその過程を行っています。時期は犬種によってばらつきもありますが。 そのため、1ヶ月齢の仔犬を向かい入れたばかりの頃は、まだ精巣が降りていない仔もいます。その後精巣が正常に降りてくる仔もいれば、片方の精巣は降りてももう片方の精巣が見当たらないという仔も出てくるでしょう。 もし、2ヶ月齢が経っても精巣がなければ、停留精巣の可能性があります。 見た目でわからなければ、優しく触って確認しましょう。本来、睾丸の袋の中に、2つのアーモンド型に似た精巣が触れるはずです。 また、獣医師に相談すればすぐに判明するでしょう。
1つしか精巣が見当たらない場合、もう片方の精巣は存在しないわけではありません。もともと1つしかない単精巣は極めて稀です。 ではドコにあるのか?それは、移動してくる過程の中に隠れています。
※正常な位置に精巣は降りています。
腹腔内、お腹の中で発生した精巣は股の部分を通り、睾丸まで行きつきます。そのため、停留精巣の場合、股の皮膚の下、または腹腔内にとどまっています。 股にあるときはよくよく触ると、精巣が触れることがあるため確認できます。太めの仔は脂肪組織でまったくわからない場合もあります。
精巣が片方ないなら、そのままなくても支障がないと、放っておく飼い主さんがいます。確かに、片方あれば生殖能力もありますし、若いうちはあまり問題ないでしょう。 しかし、高齢犬になったとき、そのお腹に残った精巣が腫瘍化してしまう危険性があるのをご存知でしょうか? 本来睾丸の中に存在する精巣は適度な温度、涼しい環境に保たれています。それが腹腔内や股に存在する温かい環境では、腫瘍化しやすいのです。 その差はなんと約13倍! 睾丸の中に降りている精巣に比べて、約13倍の確率で停留精巣は腫瘍になりやすいと言われています。 腫瘍化した精巣は、知らないうちに周辺の臓器をむしばみ、命にかかわる重篤な状態を引き起こしていることもあるでしょう。
腫瘍化する事態を防ぐために、そのとどまっている精巣を取り除く手術が必要です。 一般的な去勢手術は睾丸よりも上方、頭側の皮膚を切開し精巣を切除します。 もし股の部分にとどまって触って確認できる停留精巣なら、その部分の皮膚を切開し精巣を取り除きます。これ自体は普通の去勢手術と比べても難しくはない手術です。 しかし、股にあるのかお腹の中にあるのか脂肪などの影響で不明な場合は、まず怪しい股の部分の皮膚を切開して探します。そして股の下にないとわかったら、そのまま切開を広げ、その下の腹壁を切開して腹腔内を探して精巣を取り除きます。 股にとどまっている方が開腹手術というリスクがないため、少しは運がいいということでしょう。
基本的に正常な精巣でも、先々の他の病気のリスクを考えると去勢手術をおススメしていますが、停留精巣は去勢手術が必須なのは明らかです。 去勢手術を予定していなかった飼い主さんも、今一度、愛犬の睾丸をチェックしてみましょう。