避妊手術とはいえども、全身麻酔をかけて手術を行います。 ましてや、犬種や体形によっては、手術そのものが困難な場合も多く気が抜けません。 そういった手術のリスクを下げる一つの手段として、術前に行う検査が有効です。 手術を安全に行うことが難しいような問題を術前に発見することもあるからです。 獣医師の意見としては、術前の検査はできるだけ詳しく行いたいという希望はありますが、その分費用もかさむため、あれもこれもというわけにはいきません。 場合によっては必要以上の検査をされたと飼い主様が感じてしまい、かえって不快に思われるケースもあるからです。
今回は、実際にどのような犬には、どういった検査が必要なのかおおよその目安をご説明します。
血液検査はどんな場合でも必須の術前検査だと思っていてください。 麻酔をはじめとする体の中に入ってくる薬剤は、肝臓と腎臓で代謝されますので、腎臓と肝臓の項目は必要最低限検査しておくべきです。 またコレステロールや中性脂肪なども、麻酔の代謝に影響しますので、コリー犬種やシュナウザーなど、遺伝的に高脂血症のある犬種は検査をしておくべきだと思います。 また超小型犬の場合、低血糖を確認することも必要だと思いますし、もし出産後に避妊を行おうと検討しているのであれば、貧血の有無やカルシウムの値もチェックしておいたほうがいいと思います。
また皮膚病などがある場合、隠れたホルモン性の疾患もあることがあるため、もし余裕があればその検査も行ったほうがいいとは思います。
術前の検査として行う場合、胸部のレントゲンを撮影します。 避妊手術の場合、若い個体が多いので、あまり積極的に検査をするケースは多くないと思いますが、高齢になってから避妊手術を行おうと考えているのであれば、念のため検査はしておいたほうがいいと思います。 また、短頭種であれば、気管支から胸部はチェックしておくべきだと思います。 パグやフレンチブルドッグを代表とする鼻の短い犬種は、呼吸器系が非常に弱いからです。
普段の診察で行う聴診のみでは、病的な不整脈を発見することは困難です。 また、手術中に心電図をつけて麻酔を管理するのですが、術前に不整脈を一時的に改善する薬を前投与するので、術中に病的な不整脈の存在に気づくことはほとんどありません。 むしろ、病的な不整脈が発生するのは術後しばらくしてからなので、術後に状態が悪化して初めて気づくケースも稀ではありません。 ですので、本来術前に心電図を測定することは非常に重要だとは思いますが、ほとんどの動物病院の術前検査として心電図を行うことはあまりありません。
病的な不整脈は犬種、年齢関係なく発生しますので、気になるようであれば前もって検査をしておくべきだと思います。
生後半年から2歳ぐらいまでに避妊手術を行う場合、子宮には病的もしくは経年齢的な変化は滅多におこりませんが、5,6歳を超えたメス犬の子宮は、何らかの異常が発生している場合もあります。 子宮の状態はレントゲンなどでは評価ができないので、エコー検査を実施します。 少し年齢がたってから避妊手術を検討される場合は、術前でエコー検査を行い子宮の異常を確認しておいたほうが無難だと思います。 もちろん、検査をすることですべての異常がわかるわけではありませんし、麻酔のリスクが「0」になるわけでもありません。
獣医師の目線から言えば、できることであればすべての症例に対して、これらの検査を行いたいところですが、検査費用なども含めて、総合的に考えてご相談させてください。