避妊手術は麻酔をかけての手術です。そして、どんな手術においても必ず行ってもらいたいのが「術前検査」。
術前検査の目的は手術や麻酔のリスクを少しでも減らしてあげることです。
猫の外見からではわからない部分も、術前検査からは多くの情報を得ることができます。今まで気がつかなかった病気をみつけてあげることも出来るかもしれません。
術前検査は安全に手術を行うための、重要な手段の一つとなっています。
術前検査はどんなことをするの?
手術前に必要な検査というのは、手術内容はもちろん、猫の年齢や病歴などにより多少異なります。
そのなかでも、健康な猫の避妊手術において一般的に行われているのが、血液スクリーニングと呼ばれる血液検査です。
スクリーニングとはもともと「ふるい分け」という意味で、体のどこかに異常はないか見つけ出すために行われる検査です。
手術前の検査以外にも、健康診断での血液検査や、体調不良で一番始めに行う血液検査も、このスクリーニング検査です。
病院によって多少項目は異なりますが、血糖値、電解質、腎機能や肝機能など、多くの情報をこの検査によって得ることができます。
今回はこのスクリーニング検査の中でも、一般的に使われる事の多い、肝機能、腎機能を示す項目について少し解説していきましょう。
なぜ肝機能、腎機能が重要なの?
肝臓と腎臓は、多くの物質の代謝(解毒)において中心的な役割を果たします。
避妊手術で使われる薬剤や麻酔薬にも、これらの臓器で代謝されるものが含まれています。
そのため、病気で機能が低下していたり、先天的な異常をもつ猫では、「麻酔から覚めにくい」「薬剤が正常な効果をみせない」などの問題が生じやすくなります。
また、麻酔薬や手術の刺激は、肝臓や腎臓に送られる血液量を減らしてしまうことがあります。
この手術が与える体への影響によって、肝機能や腎機能の低下している猫では、手術後にさらなる悪化を引き起こす場合があります。
代表的な検査項目は?
肝障害の指標としてGOT(AST)やGPT(ALT)、ALP(アルカリフォスファターゼ)などという項目か多く用いられています。
いずれも肝臓の細胞に含まれる酵素で,細胞に障害が生じると血液中に流れ出して数値が高くなります。
ただし,酵素によっては肝臓の細胞だけではなく筋肉や骨などにも存在するため、高い数値が本当に肝障害を示しているのかは総合的に判断が必要です。
特に避妊手術の術前検査においては、若い猫の骨成長によってALPの数値が高くなることがよく見られます。
腎機能の指標として用いられるものには、BUN(尿素窒素)やCRE(クレアチニン)などがあります。
これらは血液中の老廃物の一つで、通常は腎臓でろ過されて尿に排泄されます。しかし、腎臓の機能が悪くなり、排泄が障害されると血液検査の数値が上昇します。
これらの肝機能、腎機能を示す項目に異常が見られた場合は、手術を延期・中止したり、追加の検査を行う必要があるかもしれません。
まとめ
最後はマニアックな話になってしまいましたが、わかりにくい血液検査について少しでも興味をもって頂けましたでしょうか。
残念ながら獣医師も万能ではありません。
猫にとって出来る限り安全な手術を行うためにも、手術前の検査にどうぞご協力下さい。